臨床医がメチレーションやSNPsについて勉強する必要性

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臨床医の先生方、
メチレーションやSNPsについてご存知ですか?

これからは食事指導や栄養素の補充、投薬について考える時、
SNPsについて考慮することが
必須になる時代が来ます。
どういうことでしょうか。

SNPSとは

SNPsとはSingle Nucleotide Polymorphismの略で、
日本語では一塩基多型と言います。

私たちは両親から1対ずつの遺伝子を受け継いでいます。
だから両親に顔つきや体つきが似るわけですね。
遺伝子配列はATGCの4種類の核酸塩基によって構成されていますが、
長~い遺伝子配列の中で、
ある一つの核酸塩基だけが何らかの原因で、
変わってしまうことがあります。
そうした変異が1%以上の人に認められるものをSNPsと呼びます。

上と下を比べてみてください。
野生型ではAなのが、変異型ではGになっています。
こういうのを1塩基が変わった、
「一塩基多型、Single Nucleotide Polymorphism」
と言います。

AGC TAG の様に、3つの塩基を一つの暗号として読み解きますので、
こうしたSNPによって作られるタンパク質の形が変わることもありますし、
なんの変化も来さないこともあります。

変化を来した場合は、
特定の能力を持ったり、病気になりやすくなったり、
薬剤の効果が変わったりと、個人差を生じることになります。

例えば、
お酒の強さは遺伝子でほぼ決まっていますが、
お酒を分解するアセトアルデヒド脱水素酵素は
GGタイプ、AGタイプ、AAタイプがあります。

白人や黒人はほとんどがGG型でお酒に強く、
日本人はお酒に弱いタイプのAGが人口の45%いると言われています。
このタイプはGG型の1/16しか酵素の能力がありません。

そして、全く飲めないタイプのAAが5%程度いると考えられています。

ちなみに秋田、鹿児島などは強いタイプのGGが人口の71%と、多いのです。
さすがに酒どころですね!
これはおそらく、縄文系の人が東北と九州に多いのと関係してるのでしょう。

ところで、
お酒に強ければアルコールに関連した病気になりにくいかと言えば、
これが一概にそうは言えず、
実際には飲めるからとガンガン飲んで
アルコール性の肝硬変になる人はGG型が多いのです。

最初から全く飲めないと
アルコールに関連した病気にはなりようがありません。

ただし、AG型の人は
GG型の人よりも少ない量で食道がんや肝硬変になりやすいので、
やはり注意が必要です。

このように遺伝子多型とは身近なことに関わっています。

次にメチル化とは何でしょう?

メチル化とは細胞内代謝回路の一つで、メチル基CH3を加える過程のことです。
メチル化はDNAの修復と構築、
免疫機能、消化機能、
遺伝子の転写の抑制、
神経伝達物質、ホルモン、薬剤、生体異物の代謝
金属の解毒
など様々なことに関与していますから
メチル化は行き過ぎても上手く行かなくても色々な問題を起こします。

例えば、感染・アレルギー疾患・自己免疫疾患
・機能性胃腸症、発がん、精神疾患、心血管疾患など、
ありとあらゆる疾患を引き起こす原因となります。


メチル化は
クレブス回路、尿素回路、ビオプテリン回路、
葉酸回路、メチオニン回路などを通じて可能になります。

今回はホモシスティンとメチル化とSNPsの関係を見てみましょう。

ホモシスティンは心疾患の単独のリスク因子です。
MTHFRメチル・テトラ・ヒドロfolate・還元酵素によって作られたメチルfolateは
ハイドロキシB12にメチル基を渡してメチルB12を作ります。

メチオニン合成酵素MTRとメチオニン合成酵素還元酵素MTRRによって、
ホモシスティンは先ほどのメチルB12のメチル基をもらいメチオニンに再生します。

ところが、MTHFRに遺伝子変異があるとメチルfolateを作る量が減り、
結果としてメチルB12を作る量が減ってしまいます。

つまり、MTHFRの機能が落ちたら、メチルB12が減ってしまい、
メチルB12が減ると、そこからメチル基をもらって
ホモシスティンがメチオニンになりたいのなれない、ということなのです。
この結果ホモシスティンが増加してしまいます。

特にMTHFR C677Tに変異があるとこの働きが低下してしまうことがわかっています。

ホモシスティンをメチオニンに再生する量が減ってしまうのです。
だからホモシスティンが上昇して心血管疾患を起こしやすくなるわけですね。

ある研究ではホモシスティン濃度を分析すると
MTHFR C677Tの遺伝子多型と、
若年発症の冠動脈疾患が著明に関連すると報告されています。
ホモシスティン>15umol/Lと増加している場合は若い層での冠動脈リスクは特に増加します。
しかし、15以下の群では明らかな関連はないとされます。

Hou X, Chen X, Shi J. Genetic polymorphism of MTHFR C677T and premature coronary artery disease susceptibility: A meta-analysis. Gene. 2015 Jul 1;565(1):39-44.

ところで、MTHFRの変異の率は実際のところどの程度あるのでしょうか。
突然変異、何て言うからほとんどないんじゃないかと思うと大間違い。

日本人40歳から59歳の129人の日本人の調査では、
ホモ型が11%、ヘテロ型が54%、正常型が35%だったとしています。
つまり、かなり一般的な変異なのですね。
ちなみに、
ホモ型ではできる酵素の能力が正常の30%程度、
ヘテロ型では70%程度と考えられています。

Jpn J Hum Genet. 1996 Jun;41(2):247-51.
A common mutation in methylenetetrahydrofolate reductase gene among the Japanese population.
Nishio H1, Lee MJ, Fujii M, Kario K, Kayaba K, Shimada K, Matsuo M, Sumino K.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8771990

さて、問題はホモシスティンだけにとどまりません。

MTHFRが働かず、メチルfolateが適切に作られず、
メチルB12が適切に利用できない結果として
ホモシスティンは再生されにくく、
メチオニンは簡単にSアデノシルメチオニンSAMeになれなくなります。
(そしてホモシスティンが増加します。)

SAMeは
ドーパミンやセロトニンなどの神経伝達物質の代謝に関係する
カテコールーOメチルトランスフェラーゼ、COMTにも関係しています。
ですから状況によっては
ドーパミンやノルエピネフリンなどのホルモンの過剰や過少に関係してきます。
こうしたホルモンは血圧など心血管疾患と密接に関係していますから、
代謝が狂うと結果がどうなるかは自明の理です。

さて、メチレーション回路は、実際はもっと複雑なのですが、ここで今度はそのCOMTに注目してみましょう。

カテコールーOメチルトランスフェラーゼ 、
COMT V158Mはヘテロが正常と考えられています。

どちらかのホモである場合、
COMTが働きすぎたり、働かなさすぎたりするわけです。

例えばCOMTが働きすぎると
ドーパミンやノルエピネフリンがどんどん分解されて、
集中力がなくなり、ADHD注意欠陥多動性障害になってしまうことがあります。

ちょっと余談ですが、
アメリカでは幼少期から17歳までのADHDの有病率は11%もあるとされ、
ドパミン・ノルエピネフリン 再取り込み阻害剤 dasotralineが
ADHDの治療薬として使われています。
まさにこの機序を使った治療薬なのです。

逆にCOMTが働かなさすぎると
ノルエピネフリンが分解されずに増えて不安神経症などになってしまいます。

さらにこの図には載っていませんが
COMTはエストロゲンの代謝にも関係しています。

4-ヒドロキシエストロン(悪性型)を代謝して
4-メソヒドロキシエストロン(中和型)に
2-ヒドロキシエストロンを代謝して
2-メソエストロンに変換しているのです。

COMTの能力が低下すると
こうしたエストロゲンの代謝が上手く行かなくなり、
悪性の4-ヒドロキシエストロンが増えてしまい、
更年期障害や月経困難症だけでなく、
乳がん、子宮体癌などのリスクも上がってしまうので問題です。

一つの酵素が働かないと様々な問題が起きるわけです。

さて、アスピリンやビタミンEは
心血管疾患の予防として使われることがありますが、
実はCOMTが働きすぎの女性では
アスピリンでは心血管リスクが85%増加するのです。

逆に、COMTの働きが悪い女性人では
アスピリンで40%心血管リスクが低下します。
エストロゲンは凝固作用があり、
エストロゲン過剰になっている人では
アスピリンが良さそうだ、ということなのですね。

さらに、COMTが働きすぎの女性はビタミンEでも、
心血管リスクが増えることも報告されています。

2次予防にアスピリン!というのはほとんど常識の様に言われますが、
1次予防でアスピリンの使用に議論の余地があるのは、
こうしたことも関係していると考えられます。
初回発症時点ですでにCOMTのバイアスがかかっているのかもしれませんね。

メチレーションとは離れますが、SNPsといえば
ApoE4はアルツハイマー病の発症因子の一つと考えられていますが、
ApoEのタイプによっては
低脂肪食で
LDLは下がるのにsmall density LDLが増加する人もいれば、
LDLもsmall density LDLも低下する人もいます。

魚油で
TGもsmall density LDLも下がり、HDLが上がる人もいれば、
TGもsmall density LDLもHDLも下がる人がいます。

アルコールで
HDLが上がりLDLが下がる人もいれば、
HDLが下がりLDLが上がる人もいます。

遺伝子は考えられる以上に食事や投薬と関係しています。

メチレーションとSNPsと様々な疾患はまだまだ研究段階で、
これからどんどん発展していくでしょうが、
生活指導や投薬などの治療介入の前に、
まずは遺伝子や遺伝子の発現の状態を把握してそれに合わせて治療介入する、
という真の意味でのテーラーメードの医療が今後は標準医療になっていくことでしょう。

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